世界遺産の登録件数は今後何件まで増えていくのだろうか
2024-03-26
世界遺産の登録件数は2014年に1000件を超えたあと2023年には1199件となり、2024年には1200件を超えることが確実視されています。今後、世界遺産の登録件数はいったいどのくらいまで件数が増えていくのでしょうか。
今後の登録件数の増加や上限設定の是非について考えてみたいと思います。
世界遺産は毎年増え続けている
世界遺産は1972年のユネスコ総会で世界遺産条約が初採択された後、1978年の第2回世界遺産委員会で12件が初めて世界遺産リストに登録されました。その後も毎年新しい物件の登録が進められ2023年には1199件にまで登録件数が増加しました。
世界各地で文化遺産や自然遺産を世界遺産に登録することを目指した活動が活発におこなわれていることからもわかるように、今後も世界遺産の登録物件は増加していくと予想されていますが、世界遺産の登録件数はどのくらいまで増加していくのでしょうか。
1999年から2009年までの10年間ユネスコ事務局長を務めた松浦晃一郎氏によると、これまでも世界遺産委員会にて登録数の上限について議論されたことがあり、「1500件くらいはどうか」という意見が出たことがあると著書『世界遺産 ユネスコ事務局長は訴える』で述べています。
また、松浦氏自身の意見として、「2000は確実に多すぎるし、1500でも多すぎるのではないかと感じている」という見解や、「世界遺産リストの信頼性維持という見地からしても、世界遺産の数が将来無制限に増えていってはならない」という意見を同書にて述べています。
松浦氏がこの著書を執筆した時点の2007年時点の世界遺産の登録数は851件であったため、「1500件でも多すぎるのではないか」という意見は当時としては妥当なものであろうと私も感じました。しかし、当時から10年以上が経過し登録数が1200件近くまで増加した現在、1500件を上限として設定することはおそらく難しいのではないかと思います。
毎年20件以上が新規物件として世界遺産に登録され続けているという現状や、世界各国において国や自治体が観光資源として絶大な力を持つ世界遺産登録というお墨付きを求めて登録活動を進めていることを考えると、1500件に達するまでまだ20年ほど猶予があるとはいえ、世界遺産条約締約国からの同意を得ることは難しいと思います。
とはいえ、松浦氏が「世界遺産の数が将来無制限に増えていってはならない」と指摘するように、どこかで上限を設定する議論をする必要があることは間違いありません。
登録件数の上限を設定するためには、まずは2000件を目途に本格的な話し合いを早めに開始する必要があると思います。
なぜ世界遺産は毎年増え続けているのか
上記でも触れたように、世界遺産は毎年20件以上のペースで増え続けています。
「文化遺産及び自然遺産を人類全体のための世界の遺産として損傷,破壊等の脅威から保護し,保存するための国際的な協力及び援助の体制を確立することを目的とする」という世界遺産条約の本来の目的を考えれば、登録件数が増えればその分保護される文化遺産・自然遺産が増えることになるため、増加することは良いことのように見えます。
しかし、現実には保護という本来の目的よりも世界遺産に登録されることで観光資源としての価値が高まるという付加価値のほうが重視されていて、世界各地で観光資源としての価値を求めて登録活動が進められています。これが世界遺産が増加を続けている一番の理由となっています。
ただ、世界遺産登録後には観光開発が急速に進められて来訪する観光客が増加し、登録地域の自然や文化の保護に影響が出るという構図が発生しています。また、人が生活する地域が世界遺産に登録される場合にはその地域の生活環境や地域文化の存続に悪影響が出ているという研究事例も数多く発生しています。
このように、世界遺産の登録にはさまざまな問題が発生するという負の面もありますが、それでも新興国はもちろん先進国でも観光業種の発展が重要な収入源として期待されている現在、観光資源として強力な吸引力を持つ世界遺産の獲得に向けた活動は今後も各地で進められていくと思われます。
この活動を制限することになる登録総数の上限設定を各国が即座に受け入れることは容易ではないでしょう。しかし、「世界遺産リストの信頼性を維持するためには登録数を無制限に増やしてはならない」という認識があることを松浦氏も指摘しているように、今後早い段階で登録数に上限を設定するための話し合いを開始する必要があるでしょう。
現実的には1500~2000件ほどで上限が設定されていくのではないでしょうか。今後の動きを注視したいと思います。